『実践 太宰治』用のgithubリポジトリを作った
太宰治トリビュート掌編『トカトントン』
トカトントンが流行って、もう一年程になる。トカトントンというのは幻聴の一種で、罹患している患者はいつも、なにかに熱中すると急に幻聴が起こり、やる気が減衰してしまう。原因は菌ともウイルスとも不明で、ただ代々木公園に行くと罹るという流言だけが拡散している。ふと思い立って、私はそれを確かめることにした。愛用の駱駝にまたがり、家を出る。大方、自由が丘以東から新宿あたりまでは砂漠になっているため、ガソリンの配給を大事にしようと思えば、必然的に歩きか駱駝しかない。昨晩たっぷり水を飲ませていた駱駝にまたがり、廃線を辿って二時間も移動すると、お目当ての代々木公園にたどり着いた。明治神宮に守られているためか、このあたりだけはまあまあ草が茂り、人の気配も多少ある。道端、自作の楽器を演奏していた白人に尋ねると、もはやトカトントンの流行りは、別の地域に移ってしまったという。実際に自分も以前は罹っていた、しかしそれはまだ自分が日本に来る以前の話で、子供のころ、母親が執拗に外に出て遊べと煩かったため、ストレスで発症したのだ。彼の言うことが正しければ、私はアメリカに行くべきなのだ。駱駝が低く太い声で鳴いた。私は彼にアメリカの場所を訪ね、彼の指差す方向を目指した。南。それから東へ。私は知っている。海にさえ出れば、私の乗るべき船がそこにあることを。
文学フリマに参加するまでの一連の流れまとめ
来月文学フリマに参加する予定なので、 備忘録がてら文学フリマに参加するまでの一連の流れをまとめておきます。
文学フリマとは
http://bunfree.net/?tokyo_bun21 文学系の同人イベント。小説・詩・批評等なんでもある。 コミケとかコミティアとかにも出てるノンジャンル系の人たちも多く出店している印象。
当日までにやること
文学フリマへの申し込み
文学ホームページから可能。paypalで支払いできる。¥5500~くらい。
原稿作成
自由に作る。この段階ではテキストが良いと思う。原稿を複数人に依頼している際に、 wordで自由に組まれると編集が非常に辛い。
編集
WordでもIndesignでもなんでも良い(最終的に入稿できる形式にできれば良い)。 自分はmarkdownをRe:viewを使ってpdfに変換している。 今は辛いがいつか楽になると信じている。
入稿(印刷)
小部数でもポプルスなら比較的安いのでおすすめ。 pdf入稿が良いと思う。配送先を文学フリマ会場にすれば、冊子を持ち歩く必要もない。
入場証をサークル員に配る
開場前にブース準備する人は入場証が必要なので、あらかじめサークル員に配っておく。 入場証は文学フリマ開催前に自宅に送られてくるはず。
ブースに置くものの準備
- お釣り(Must)
- 筆記用具
- メモ用紙
- ガムテープ(あれば)
当日すること
ブースの準備
冊子を並べる。頒価をわかりやすいように書く。
試し読み本を一冊運営に渡す
文学フリマは試し読み用のブースがあるので、そこに置く用に一冊用意しておく。 回収は不可なので注意(どこかの大学に蔵書されるはず)
本を売る
あとで精算が必要な場合は、売れた数はメモしておく必要がある。 感覚的には、一時間に一冊ぐらい最低売れると心が折れない。
会計をまとめる
精算する。参加費 + 印刷費がかかるので、オフセで黒にするのは非常に難しいと思う。 コピー本ならいくらでも安くできるので、環境がある人は手印刷でも良いかも。
打ち上げ
やりたい人がいればどうぞ。
おわりに
あくまで一例ですので、参考までにどうぞ。 (現場では10円で本売ったり、無料でオフセ本配ったりしている人もいるので、超自由なかんじがします。) 以上、宜しくお願いいたします。
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本日の小説
「猫を食べたことは残念ながらまだないが、猫に食べられそうになったことは一度だけある。あれは黒と薄灰色のぶち猫だった。確か首輪をつけていたな」
先生はそう言うと、恐怖のあまり、痩せた体をぶるっと震わせた。よっぽど恐ろしかったのだろう。呼吸も不規則で、荒くなっている。先生の頭の中は牙を向いた猫の顔でいっぱいになっているに違いなかった。
「このように、物陰からいきなり襲ってくる前足、どんなに暗い軒下でも私たちを見つける眼、この世のものとは思えない下卑た唸り声、それらを一度体験してしまったら、私たちはもう駄目だ。私たちが育つ過程で、仲間が(つまり鼠たちが)死んでいく原因の7割が猫だった。私たちは生きていく上での、空間も食事もふんだんに用意されているにもかかわらず、丁度いまくらいの数以上にはなかなか増えないようになっていた。こちらが増えたらやつらも増えるからだ。私たちはそのような地獄のような運命に耐え忍んできた。そこには光がなかった。希望が、輝かしい未来が、」
先生の授業が中断された。地が、傾いだのだ。
私たちは舟にいる。巨人にとっては小舟だが私たちの家族を乗せるには十分な広さの。巨人の雄叫びが上がる。揺れたのは彼らが跳ねたせいだった。笛が鳴る。鼓が打たれる。そして彼らの荒々しい歌が。先生はその圧倒的な音圧に一度気絶し、起き上がるや否や、二度気絶した。
「先生」私は先生を起こして言う。間違いなかった。これほど巨人たちが興奮する理由が他にあるはずもなく、「先生、……陸地です」
先生はやにだらけの眼を見開いた。それもそうだろう。彼はたっぷり700日間もこの舟の上にいたのだ。先生は知っている。あの考えられないほど永い間私たちの大陸から切り離されていたそこは、私たちの楽園だと。伝説の土地だ。そこには猫もおらず犬もおらずイタチもいない。あらかじめあの地に住んでいる生き物がなんであろうと、こちらは今まで猫どもに揉まれて何世代も生を繰り返した鼠の血を引いている。私たちには誇りがあるし歴史がある。私たちには先祖の魂が彫り込まれている。船旅は長く、もはや私たちの間で猫を実際に見たことがある者は先生しかいないが、全ての体験は私たちに語り継がれた。巨人の咆哮と共にこの舟が上陸した瞬間、私たちはきっと陽の光に向かって駆け出す。住処を探し木のみを見つけ子を増やす。私たちは展開する。繁栄するんだ。
よどみなく変わる憧憬
風景が次々に変わっていく。典型的な都会のビル群から、トンネルと少しの光、森や畑へ。そのすべてをぼくは眺めていた。まるで旧くから付き合いのある本を読んでいるかのようだ。ああ、確か小学校のときに『トロッコ』を読んだっけ。あの主人公はトロッコを押していた、まさにその気持ちを体験しているんだ。ほおづえをついて考える。
「あの頃はよかった」
あの頃って言ってもぼくはまだ十七歳で。たったの五年前のことだった。当時、ぼくの側には少女がいた。少女は何をするにもぼくと一緒だった。そして、ぼくが小学校卒業と供に転校するとなったらわんわん泣いていた。その顔を思い出す。トンネルを通っているせいで、窓の硝子に自分が映っていた。それはひどい顔をしている。なにせ大切な人を泣かせてしまった罪悪感とその人を失ってしまった喪失感がどっと押し寄せてきていたから。
ぼくは頭を横に振る。
――だから会いに行くんだ。彼女に。
もう既に、窓の向こうには田園風景しか見えない。
電車を降りる。母親の懐のような、懐かしいにおいがした。しかしその駅は、考えていたよりずっと開発されていて改札も自動改札になっていた。ぼくの住む都会と、変わらない。――こんなはずじゃない。ぼくの脳裏にどろっとした嫌なものが浮かぶ。改札のほうへ歩くと、小高いマンションやぼくの街と比べるとやや小さいビルが見える。極めつけは大規模なショッピングモールの看板だった。
「……な、なんで?」
持っていた通学用のカバンを落としそうになる。本当に呆気にとられると人間は動けなくなるものだ。
何分か時間が経ってから歩くことにした。改めてマンションを見ると、裏に昔遊んでいた山を見つけ、ほっとした。
改札を出てまるで誘い混まれるかのように山へ入った。頂上を目指して歩いていた。……本当に変わってしまった。マンションやコンビニなんて昔はなかったのに。
町が見たい。変わってないものもあるはずだ。特に彼女。それでも足取りは重かった。ちょうどいい小さな岩があったので、腰掛ける。ぼくに帰る場所はないのか。いや、でも彼女は、彼女は変わっていてほしくない。
とっとっと、後ろから誰かがかけてくる音が聞こえた。ぼくは振り向く。そこには幼い少女、いやでもあの娘に似ている子がこっちに走ってきた。
「あ、あの」
その子になぜか話しかける。まるでその子は気付いていないのか自分を通りすぎた。
「ごめん。あの」
ぼくはもっと大きい声で言った。彼女はまだ見えるくらいの距離をとことこと走っていた。
「待って」
ふと右手を出す。少し前へ押し込むようにかけだす。ぼくはなんでこんなに必死なのか。答えはきっとあの子があの”娘”とうり二つだからだろう。
「待ってってば」
手をもがきながら走る。ぼくと彼女はまるで追いかけっこするかのように頂上へ向かっていた。
「ああ……。なんでこんなにあの子は早いんだ……」
へとへとだった。走るのも遅くなる。
だんだんと、彼女の背中は消えていく。やっと頂上に着くと、そこに彼女はいなかった。どこかですれ違ってしまったのか。いや違う。ぼくは変わってしまった街を見ながら彼女も変わってしまっているのだと確信した。