文學ラボ@東京

(文学をなにかと履き違えている)社会人サークルです。第22回文学フリマ東京では、ケ-21で参加します。一緒に本を作りたい方はsoycurd1あっとgmail.comかtwitter:@boonlab999まで(絶賛人員募集中)。

content

太宰治トリビュート掌編『トカトントン』

 トカトントンが流行って、もう一年程になる。トカトントンというのは幻聴の一種で、罹患している患者はいつも、なにかに熱中すると急に幻聴が起こり、やる気が減衰してしまう。原因は菌ともウイルスとも不明で、ただ代々木公園に行くと罹るという流言だけが拡散している。ふと思い立って、私はそれを確かめることにした。愛用の駱駝にまたがり、家を出る。大方、自由が丘以東から新宿あたりまでは砂漠になっているため、ガソリンの配給を大事にしようと思えば、必然的に歩きか駱駝しかない。昨晩たっぷり水を飲ませていた駱駝にまたがり、廃線を辿って二時間も移動すると、お目当ての代々木公園にたどり着いた。明治神宮に守られているためか、このあたりだけはまあまあ草が茂り、人の気配も多少ある。道端、自作の楽器を演奏していた白人に尋ねると、もはやトカトントンの流行りは、別の地域に移ってしまったという。実際に自分も以前は罹っていた、しかしそれはまだ自分が日本に来る以前の話で、子供のころ、母親が執拗に外に出て遊べと煩かったため、ストレスで発症したのだ。彼の言うことが正しければ、私はアメリカに行くべきなのだ。駱駝が低く太い声で鳴いた。私は彼にアメリカの場所を訪ね、彼の指差す方向を目指した。南。それから東へ。私は知っている。海にさえ出れば、私の乗るべき船がそこにあることを。