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文學ラボ@東京

(文学をなにかと履き違えている)社会人サークルです。第22回文学フリマ東京では、ケ-21で参加します。一緒に本を作りたい方はsoycurd1あっとgmail.comかtwitter:@boonlab999まで(絶賛人員募集中)。

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よどみなく変わる憧憬

社会死人 小説

 風景が次々に変わっていく。典型的な都会のビル群から、トンネルと少しの光、森や畑へ。そのすべてをぼくは眺めていた。まるで旧くから付き合いのある本を読んでいるかのようだ。ああ、確か小学校のときに『トロッコ』を読んだっけ。あの主人公はトロッコを押していた、まさにその気持ちを体験しているんだ。ほおづえをついて考える。
「あの頃はよかった」
 あの頃って言ってもぼくはまだ十七歳で。たったの五年前のことだった。当時、ぼくの側には少女がいた。少女は何をするにもぼくと一緒だった。そして、ぼくが小学校卒業と供に転校するとなったらわんわん泣いていた。その顔を思い出す。トンネルを通っているせいで、窓の硝子に自分が映っていた。それはひどい顔をしている。なにせ大切な人を泣かせてしまった罪悪感とその人を失ってしまった喪失感がどっと押し寄せてきていたから。
 ぼくは頭を横に振る。
 ――だから会いに行くんだ。彼女に。
 もう既に、窓の向こうには田園風景しか見えない。
 電車を降りる。母親の懐のような、懐かしいにおいがした。しかしその駅は、考えていたよりずっと開発されていて改札も自動改札になっていた。ぼくの住む都会と、変わらない。――こんなはずじゃない。ぼくの脳裏にどろっとした嫌なものが浮かぶ。改札のほうへ歩くと、小高いマンションやぼくの街と比べるとやや小さいビルが見える。極めつけは大規模なショッピングモールの看板だった。
「……な、なんで?」
 持っていた通学用のカバンを落としそうになる。本当に呆気にとられると人間は動けなくなるものだ。
 何分か時間が経ってから歩くことにした。改めてマンションを見ると、裏に昔遊んでいた山を見つけ、ほっとした。
 改札を出てまるで誘い混まれるかのように山へ入った。頂上を目指して歩いていた。……本当に変わってしまった。マンションやコンビニなんて昔はなかったのに。
 町が見たい。変わってないものもあるはずだ。特に彼女。それでも足取りは重かった。ちょうどいい小さな岩があったので、腰掛ける。ぼくに帰る場所はないのか。いや、でも彼女は、彼女は変わっていてほしくない。
 とっとっと、後ろから誰かがかけてくる音が聞こえた。ぼくは振り向く。そこには幼い少女、いやでもあの娘に似ている子がこっちに走ってきた。
「あ、あの」
 その子になぜか話しかける。まるでその子は気付いていないのか自分を通りすぎた。
「ごめん。あの」
 ぼくはもっと大きい声で言った。彼女はまだ見えるくらいの距離をとことこと走っていた。
「待って」
 ふと右手を出す。少し前へ押し込むようにかけだす。ぼくはなんでこんなに必死なのか。答えはきっとあの子があの”娘”とうり二つだからだろう。
「待ってってば」
 手をもがきながら走る。ぼくと彼女はまるで追いかけっこするかのように頂上へ向かっていた。
「ああ……。なんでこんなにあの子は早いんだ……」
 へとへとだった。走るのも遅くなる。
 だんだんと、彼女の背中は消えていく。やっと頂上に着くと、そこに彼女はいなかった。どこかですれ違ってしまったのか。いや違う。ぼくは変わってしまった街を見ながら彼女も変わってしまっているのだと確信した。