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文學ラボ@東京

(文学をなにかと履き違えている)社会人サークルです。第22回文学フリマ東京では、ケ-21で参加します。一緒に本を作りたい方はsoycurd1あっとgmail.comかtwitter:@boonlab999まで(絶賛人員募集中)。

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テーマ「カフェの中」(社会死人)

物語が出来るとき

 

 

 ノートパソコンには、ひたすら文字が並んでいた。画面の光が目に当たる。そのつらつらと書かれたすべてが僕にとっての失敗だった。
『どうしてあの人みたいな小説になってしまうんだろう』
 心の中で呟いたものをそのままキーボードで打ってしまう。あの人とは、僕が昔から好きな作家だった。コントロールキーとAキーを押したままでデリートキーを押して、それを繰り返す。このカフェでいつも聴いていたピアノの旋律が煩わしく感じた。パッヘルベルのカノンは好きなのに、このときばかりは聴きたくない。
 このカフェには僕と、向かいの奥にベレー帽の被った老年の男性がいた。完全に煮詰まり、徐にその男性のほうを見る。彼も書類を見ながらキーボードを叩いていた。
 僕が余りにじっと見ていたせいか、男性もこちらに気付いたようだった。ベレー帽から微かに見える白髪、そして丸眼鏡がとても似合っていた。彼は笑顔でこちらに挨拶してきた。
「やあ、どうしたんだい」
 帽子を取ってそれを頭の上で振る。きれいな白い髪がたなびく。
「こんにちは」
「君は作家かい? さっきから進んでいないようだけど」
「いえ……」僕はどう答えていいのかわからなかったが、「でもなることができれば」とだけ付け加えた。
「それはいいねえ。よかったら読ませてくれないかい?」
 男性の丸眼鏡の奥は好奇心で溢れているようだった。
「いいですけど、今書いているものはまったくできてません。過去の作品でよろしければ」
 いいよいいよ、というと席から立ち上がりこちらへ向かってきた。僕は慌てて過去の作品を表示した。
「すみません。貴方は作家なのですか?」
「それは当ててみてごらん」
 僕は頭にはてなを浮かべながら、ノートパソコンをその男性のほうへ向ける。
「ごめんね、目がもう駄目だからもう少し大きくしてくれるかい?」
「はい」
「……ふむふむ」
 男性は何かを考えているようにあごの先に指を置いた。
「これは東樹の作風みたいだね。彼はある鉄筋を見ればその鉄筋の中の構造がわかるように描く。でも君は鉄筋の中身を知っているのかい?」
「いいえ」
 ふーむ、と男性は訝しむ。
「なら君の知識と東樹の文体を混ぜてみたらどうかな?」
「なるほど。僕にしか書けない知識で書くということですか?」
 そうだね、と男性は言った。
「ありがとうございます。こうやってやり取りして作品は出来ていくんですね」
 その男性はにっこりと微笑んだ。
「編集って言う仕事も大事でしょ」