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文學ラボ@東京

(文学をなにかと履き違えている)社会人サークルです。第22回文学フリマ東京では、ケ-21で参加します。一緒に本を作りたい方はsoycurd1あっとgmail.comかtwitter:@boonlab999まで(絶賛人員募集中)。

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すべての天才ではないpixiv作家・なろう作家に届けたい、又吉直樹『火花』のすごさ

soy-curd 評論

はじめに

本日又吉直樹『火花』を読了し、ここには創作活動のためのエッセンスが詰まっていると感じました。 その過程で考えたことが、他のweb上で創作活動行う方々に参考になればと思い、 このエントリを記述します。*1

火花

火花

『火花』はどのような小説なのか

  1. 表向き →一人の芸人の人生とその仲間たちの関係性を描いた良質な青春小説。

  2. 創作者向き →ジャンル横断的に議論可能な複数の創作論の提示とその実践。

本エントリではこの2.の部分について記していきます。

創作活動における天才と努力家

現在、小説、動画作成、イラスト、マンガなど、web上でコンテンツを発信することが非常に容易になってきています。 その中で私たち*2は、"天才"を見た時に、自分の存在理由を失ってしまうほどの衝撃を 受けることが有ります。

自分はいくら努力してもあいつのような作品を作れないではないか。

自分が作品を作り続けて果たして意味があるのだろうか。

そのように、努力家は自分の創作意義、創作スタイルについて自問自答・試行錯誤を繰り返しながら、 創作活動を行っていかなければなりません。

『火花』はそのような"不器用な創作家"のパターンを複数提示することによって、私たちの頭の中を整理してくれます。

『火花』における創作フレームワーク

例えば、プログラミングを嗜む人にとって、"フレームワーク"は欠かせないものです。日本でRubyが生まれたのは1990年代でしたが*3、 それが2000年代、Ruby on Railsというwebフレームワークの登場によって華々しくweb上の表舞台に踊り出、現在では様々なwebアプリケーション*4で利用されています。

これを小説に適用すると、Ruby==日本語、Rails==『火花』であると私は考えました。 日本語は、日本人であればほとんど、喋ったり、書いたりすることができます。しかし、果たしてそれで万人に届く小説を描くことのできる人間が何人いるかというと、残念ながら、ほんの一部しかいないでしょう。

"巨人の肩に乗る"、というという言葉がありますが、創作においてその巨人となりうるものの一つに、 "先人の創作物に対する考え方"があると思います。私たちが本来は内的な思索や仲間との議論によって手に入れるものを、 この『火花』を読むことによってショートカットできるのであれば、非常にコストパフォーマンスが良いはずです。

『火花』において例示されるフレームワークは以下のようなものです(抽象化して記述します)。

  • 創作に対して真摯・誠実であるが世間に対してバランスを取り過ぎている主人公。
  • 創作は人生における至上命題であるが世間に中々受け入れられない主人公の師匠。
  • 舞台に出るだけで笑いを生み出す天才。
  • 創作と自身の生活を天秤にかけながらも漫才を続ける主人公の相方。

これらのキャラクターを小説の中で動かし、会話させることにより、 複数の創作フレームワークの利点・欠点を『火花』は深堀りしていきます。 皮肉なことに、作中このキャラクターたちの中で明確に芸人として成功するのは天才くんだけですが、 恐らく実際に"凡庸な"作家に必要なものは、これらのことについてきちんと、誠実に考えることです。 創作に銀の弾丸はないのです。

『火花』における創作フレームワークの実践

先ほど、Rails ==『火花』であると書きましたが、もっと言うと、Rails + サンプルソース*5 == 『火花』だと私は考えています。 『火花』には主人公と主人公の先輩という二人の芸人が出てきますが、それぞれの芸に対するスタンス、そして行っていることは異なります。

そして又吉直樹はその二人の人物の人生を記述し、対話させることにより、その二つの創作フレームワークを対比して、読者に提供しているのです。

また、この小説はそれ自体が、主人公のスタンスである、『創作に対して真摯・誠実』に沿って書かれています。 それがこの小説の強度*6を増しているのですが、実際にそのフレームワークの例文を私たちは『火花』を通して見ることができます。 「Aという考え方をもとに記述されたA」という再帰的な存在。それが『火花』です。

おわりに

又吉直樹『火花』は、pixivや小説家になろうによるweb上の創作物の発信、 あるいは文学フリマ等のイベントの開催が数多く行われている現代において、 「発信者への指針」としてひとつの基礎となりうる作品だと思います*7 *8。 以上、宜しくお願いいたします。

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)

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人月の神話【新装版】

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*1:タイトル釣り気味

*2:主語が大きくて申し訳ありません

*3:https://ja.wikipedia.org/wiki/Ruby

*4:なお、ユーザ登録機能など複雑な機能を持つwebサイトをwebアプリケーションと呼びます

*5:チュートリアルなどで参照されるプログラムの例示

*6:説得力

*7:ベストセラーになった遠因かもしれない

*8:また、『火花』は単に"創作あるある"である一面もありますので、そのような身内ネタが好きな方は一読をおすすめします。