文學ラボ@東京

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村上春樹「風の歌を聴け」のコスパの良さについて

村上春樹風の歌を聴け」のコストパフォーマンスが異常に良いので、それについて書きます。

値段

BOOKOFFで¥100。書店で買っても¥390円で手に入るコスパの良さです。ほとんど全てのラノベより安いことに注目していただきたいです。

文学性

あの村上春樹のデビュー作であり、かつ群像新人賞受賞作*1です。素晴らしい。

ささっと読める

改行も多く、文章も平易、長さもそれほど長くありません。内容も軽やかであり、ストーリーらしいストーリーもないので特にひっかかりもなく最後まで読み切ることができます。文庫も中編一個しか入っていないので、軽くて持ち運びに便利です。

絵とかラジオっぽい描写がついていてお得

途中にはTシャツの絵が挿入されており、お得感があります。ラジオのトーク描写も、いかにもラジオ、というかんじで、ラジオ好きにはたまりません。

延々と酒を飲んでいる

話のほとんどがバーにいるシーンなので、読んでいるだけでこちらが飲酒しているのではないかという錯覚に浸ることができます。 大抵飲まれているのはビールですが、ギムレットや白ワイン、バーボンなんかも飲んでいます。正直酒を飲む以外に主人公がなにをやってるかよくわかないくらいには酒を飲みまくっている小説です。

全力でメタを味わえる爽快感

デビュー作から、村上春樹がフィクションのパワーについていろいろ考えていることが伝わってきます。 作中、"鼠"という登場人物がある物語のあらすじを説明するのですが、それを主人公が評して、

鼠の小説には優れた点が二つある。まずセックス・シーンの無いこと、それから一人も人が死なないことだ。

と語ります。「風の歌を聴け」自体、あけすけなセックス・シーンや死亡シーンはないのですが、回想という形で、セックスや死については記述がなされており、メタな言及が意図的に行われていると読めます。

また、この作品は終始、"デレク・ハートフィールド"という架空の作家について書いているのですが(村上春樹は、この作家も作中で自殺させています)、作者はこの作家を

文章を武器に闘うことができる数少ない非凡な作家の一人でもあった

としているのですが、いっこうにこの作家の小説を読ませてくれません。主人公はこの作家から多くを学んでいるらしいので、恐らくこの作品を読むことで、"デレク・ハートフィールド"の文章が浮かび上がってくることが想定されています。この「風の歌を聴け」という小説自体、"文章を武器に闘う"意思を孕んだ、自覚的な小説です。

と、いうように、この作品は基本的にフィクショナルなフィクションなので、読解が再帰し得、無限に楽しむことができます。

風の歌を聴け」のあらすじ

主人公はアラサーになってなにかを書きたくなった。文章の師は"デレク・ハートフィールド"。このおっさんみたいに書けばいいかんじな気がする。昔は鼠と一緒に酒ばっか飲んでたなあ。そういえば三番目につきあった女の子はたくさんセックスしたけど結局自殺しちゃったなあ。指が四本しかない女の子とは結局セックスしなかったなあ。そんなかんじでまとめてみたけどこれが僕のベストです。

おわりに

風の歌を聴け」を読まないと損という話でした。「風の歌を聴け」、タイトルの意味はよくわかりませんが、「風の歌、…聴いてもいいかも」という気分にはなると思います。以上、宜しくお願いいたします。

村上春樹全作品 1979?1989〈2〉 羊をめぐる冒険

村上春樹全作品 1979?1989〈2〉 羊をめぐる冒険

*1:横田創 、木下古栗、諏訪哲史、丸岡大介等の精鋭を輩出している文学賞